2011年2月16日(水)都議会本会議 一般質問

[質問項目]

森林再生事業(環境局)、森林循環再生プロジェクト(産業労働局)、水田の保全(産業労働局)、全国都市緑化フェア(建設局)、神代植物公園の植物多様性の取り組み(建設局)、環境の世紀のこの十年の緑施策の総括と今後の展望(知事)、救命講習の事業所での実施推進(消防庁)総合防災教育での小学校高学年への心肺蘇生の導入(消防庁)。以上八点の質問(カッコ内は答弁の担当)。

[山下ようこ登壇]

 それでは私、山下ようこからは、東京の緑という観点で、まず森林について伺います。
  今年は国際森林年です。世界中の森林の持続的な経営・保全に対する認識を深めようと国連総会で決議されました。世界では、目先の利益を求める違法伐採が続き、森林が減少。生物多様性や気候への大きな影響も見られます。
一方、ここ東京に目を向けますと、森林は島嶼部を含めた東京の全面積のおよそ4割を占めています。市街地に住む人々も、東京の森林を身近なものとして、また、さまざまな課題を自分たちのこととして考える。国際森林年が、そのきっかけになることを望みます。
東京都は、木材価格の低迷などから、管理が行き届かなくなった森林を対象に、2002年・平成14年、森林再生事業に乗り出しました。林業という産業面だけでなく、森林の持つ二酸化炭素吸収・酸素放出という光合成能力や保水・治水機能など、環境という公共性、公益性に注目した全国に先駆けた取り組みと理解しております。
国際森林年の日本国内のテーマは「森を歩く。未来に向かって日本の森を活かそう」とのこと。私も先日、西多摩の森林を歩いてまいりました。
スギやヒノキの山だけでなく、広葉樹との混交林や花粉の少ないスギの苗を植えた斜面、所有者に代わって企業や自治体が管理する山など、新たな試みも見られました。
そこで改めて、森林再生事業を開始した理念と、そのしくみ、現在の進捗状況を伺います。(Q1)

 国際森林年の国内のテーマ、森を活かそうという言葉には、暮らしの中に木材を取り入れよう、という意味も込められていると聞きます。
戦後植えられた東京・多摩地区の森林は、今ちょうど伐採の時期を迎えています。
森林は木を伐採し、木材として利用し、また、苗を植える、というサイクルが重要です。
木材の利用拡大が林業の振興につながり、それが森林を守ることになります。
東京・多摩の木材、原木市場は、このところ価格が上昇傾向にあり、森林所有者にとって明るい材料となっています。森林に再び目を向ける人が増えれば、山が守られる、という理論ですが、多摩地区の森林の最大の問題は、小規模の所有者が多く、その上、地形が急峻で、木材の搬出に多くの費用がかかるため、伐採した木材を搬出するのが難しい、という点です。
そこで、東京都は、2009年、平成21年度から、小規模所有者の多い多摩の森林を集約し、低コスト化などをはかる「森林の循環再生プロジェクト事業」を実施していると認識しております。
この事業による森林整備と木材の利用について、これまでの実績と今後の取り組みを伺います。(Q2)


 林業という産業の視点と環境の視点の双方からの取り組みが、東京の森林を保全することになると私は考えます。
これと同じように、産業面だけでなく、環境の面からも保全に取り組んでいただきたいものに水田があります。
かつては東京の各地にも水田がありましたが、開発などによって大幅に減少しました。
イネ科の植物は全般に光合成の能力が高く、環境改善に効果があるとされています。
イネは、同じイネ科のサトウキビやトウモロコシに比べれば、光合成能力が低いものの、その他の植物よりは、すぐれていると言えます。加えて、夏の暑い時期に水をはった水田はヒートアイランド現象の緩和に効果があり、また、水田での稲作が連作障害とは無縁なのも、環境の世紀の農業にふさわしいと考えます。
東京都は、こうした観点からも、残り少なくなった水田をできる限り、守っていく必要があると思います。
そこで、水田面積の推移と、水田の保全のための取り組みを伺います。(Q3)


 水田に限らず、東京の農業、農地を守ることが、緑の保全につながるのは言うまでもありません。
そして、農地を守るだけでなく、さらに農業を育てるには、新たな需要の掘り起こしが必要と言えるでしょう。
東京が進める都市緑化は、苗木生産など、園芸農家の育成につながります。
街路樹、公園、そして屋上緑化に壁面緑化、さらには、私がおととし12月の一般質問のこの場で提案いたしました東京のオフィスビルの室内緑化の推進など、あらゆる都市空間の緑化を進めることが、新たな需要の掘り起こし、農業育成につながるものと考えます。
こうした中、来年、東京で開催される全国都市緑化フェアは、人間と植物との共存共栄の素晴らしさを多くの人々に知らせるとともに、東京の植物の生産を拡大するための大きな可能性を秘めた催しであると考えます。そのときだけの、いわゆる一過性のイベントではなく、二十一世紀を生きる人々に、緑あふれるライフスタイルを提案できるものとなることを望みます。
この全国都市緑化フェアの基本的な考え方を伺います。(Q4)


 近年、生物多様性という概念が、以前にも増して注目されるようになりました。
さまざまな動植物が共に生きる地球の尊さを再認識する言葉だと思います。
東京も、面積は狭くても、西多摩の山々から、世界自然遺産への登録を目指す小笠原まで、生物多様性を誇ることのできる、すばらしい故郷であると思います。23区と多摩地区の接点である調布市の神代植物公園では、東京の植物の多様性をテーマにした新たな事業も進められていると聞きます。その取り組みについて伺います。(Q5)


 環境の世紀と呼ばれる二十一世紀に入って、ちょうど十年。東京都は二十一世紀最初の年、2001年に屋上緑化の義務化を開始したのをはじめ、翌年には森林再生事業、さらに街路樹倍増計画や海の森事業など、この十年、先進的な取り組みを進めています。ここで、東京の緑の行政について、環境の世紀のこの十年の総括と、今後の展望を石原都知事に伺います。(Q6)


 さて、私がきょうここで質問を始めてから8分が経過しました。こうしている間にも、東京消防庁の救急指令室には、救急車を要請する119番通報が、次々に届いているものと思われます。
東京消防庁の速報値によりますと、去年1年間の管内の救急車出動は合計70万件余り、平均して45秒に一回、出動している計算です。救急車出動の要請を受けてから現地到着までの時間、いわゆるレスポンスタイムはおよそ8分、これはあくまで平均値であり、交通渋滞の起こりやすい箇所や山間地など、地域の実情によって、これよりも時間のかかるケースがあるのは言うまでもありません。
一方、人間が心肺停止、つまり心臓停止、呼吸停止などの緊急事態に陥ったときの、時間の経過と死亡率の関係を示すカーラーの救命曲線によりますと、心臓停止から3分間で死亡率は50%。その後、時間の経過とともに死亡率が高まり、この数字はやがて100%に達します。
つまり、心臓停止から一刻も早く蘇生措置を施すことが命を救い、そして命を取り留めた時の社会復帰の確率を高めることになるわけです。言い換えれば、救急車到着までの蘇生措置が極めて重要で、心臓停止から最初の数分間は、「命の勝負の時」、と言えるるでしょう。
心臓が停止するような緊急事態の際、直ちに救命活動ができるのは、そこに居合わせた人、すなわちバイスタンダーと呼ばれる人です。バイスタンダーが心肺蘇生の方法を心得ていて、手を差し伸べる意識と行動力があれば、命を救える可能性が大きくなります。
世界の医学の専門家で組織する国際蘇生連絡協議会が去年発表した「心肺蘇生に関するコンセンサス」によりますと、心肺蘇生のための最初の措置として最も有効な方法の一つは心臓マッサージであるとしています。器具などを使わず、人の手でのみおこなえる心臓マッサージなら、場所や時間帯などを問わずに実行できます。この心臓マッサージの方法を一人でも多くの人に知らせることが、社会全体の救命率を高めることになるはずです。
東京消防庁は、この心臓マッサージを含む応急手当の講習会実施を推進しており、個人でも団体でも、希望すれば受講できる、と聞いております。
私は中でも、消防庁が、東京の事業所での実施に力を入れていることを評価しております。地域の自治会への加入率低下が問題視される中、地域の防災訓練や各種の講習会には、出席を躊躇する人が増えていると思われます。また、こうした訓練などは日曜日の午前中に開催されることが多いため、休日ぐらいゆっくり過ごしたいと考える働く世代には、かえって参加しにくいものとなっています。本来、働く世代は、一般に体力や行動力があり、救命措置の実行に適しています。その人たちが、事業所の業務の一環として、まとまって受講すれば、即戦力の人材を一度に大勢、世に送り出すことになります。こうした人たちが、社会に増えるのは心強いことです。
消防庁の事業所への応急手当の普及推進の取り組みを伺います。(Q7)

 

 また、応急手当の講習会は、大人対象だけでなく、教育現場にも、より広くより深く組み入れるべきと考えます。
東京消防庁では、家庭や地域での防災行動の向上と将来の防災活動の担い手育成のために、幼児期から社会人までの体系的な総合防災教育を推進していると聞いております。年代に応じた内容を教える、というもので、たとえば、小学校の3年生から6年生では、止血法などの応急手当、中学生以上になると、心肺蘇生やAED、自動体外式除細動器の操作方法などを教える普通救命講習のカリキュラムが組まれています。
家族が自宅で心臓停止に陥った時、バイスタンダーは、当然、その家族です。
核家族化が進む中、大人も子供も皆が家族の命を救うという自覚を持つことが大事です。
自宅で心肺停止に陥った家族を小学校高学年の児童が心臓マッサージによって助ける、という事例が、東京消防庁管内や他の県で報告されています。
父親が夜中に心肺停止、母親が119番通報、指令室の指示を電話で受けながら、子供が父親に必死で心臓マッサージをおこなう。到着した救急隊員は、その光景に驚いたということです。その父親は、その後、社会復帰することができたと聞きます。
子供は、テレビドラマの心臓マッサージのシーンを思い浮かべて、実行したということです。
小学生も高学年になれば、家族を支え、命を救うこともできると、この事例が実証しています。
私は、東京消防庁の総合防災教育で、現在は中学生以上からとなっている心臓マッサージなど心肺蘇生の方法を教えるプログラムを小学校高学年にも取り入れることが、救命率向上のために有効であると考えます。
見解を伺います。(Q8)

 人の命や地球環境を守る。これからも世界をリードする東京であることを強く願い、私の質問の結びとさせていただきます。ありがとうございました。(拍手)


[石原慎太郎知事登壇]

石原慎太郎知事

山下ようこ議員の一般質問にお答えいたします。

この十年の東京の緑施策についてでありますが、いかなる小さな木、小さな緑でも、これはなぜか人の心を和ませるものであります。その緑があふれる都市東京を実現するためには、従来の行政の枠組みを越えて、緑を積極的に植え、育て、守るというムーブメントが、民間からも積極的に展開されるなど、幅広い取り組みが重要であります。

緑の東京募金では、海の森づくりのために、五億円を目標に拠金を募ってまいりましたが、わずか三年余りで達成の見込みとなるなど、緑のまちづくりへの都民の参画意識とともに、なじみの薄かった寄附の文化も醸成されてきていると思います。

また、企業の森事業では、多くの社員が都民とともに、植林活動を実施するなど、森林づくりにボランティアとして積極的に取り組む企業も次々とあらわれておりまして、民間の力を生かした協働の輪が大きく広がってきております。

今後とも、こうした十年間の成果を礎に、志を持った多くの都民や民間企業と協働して、緑のまちづくりを進めていきたいと思っております。

他の質問については、関係局長から答弁します。

 

[大野輝之環境局長登壇]

大野輝之環境局長

森林再生事業についてのご質問でございます。

森林再生事業は、環境の視点から、地下水の涵養など、森林の持つ公益的機能の回復を目指しまして、構築をしたものでございます。

この事業は、多摩の荒廃した人工林を対象に、五十年かけまして複数回の間伐を繰り返し、良好な森林に再生させる長期的な視点を持った事業でございます。事業開始から平成二十一年度末までに約五千ヘクタールの間伐を実施してまいりました。

 

[前田信弘産業労働局長登壇]

前田信弘産業労働局長

二点のご質問にお答えいたします。

まず、森林の循環再生プロジェクトについてでありますが、森林整備と木材の利用拡大を図るには、伐採、搬出のコストを可能な限り抑え、林業の経営力を強化することが重要であります。

本事業は、森林所有者の合意を得て、森林施業を集約化することで、スケールメリットを生かしたコスト削減を実証するモデル事業であります。具体的には、モデル団地二カ所を選定し、作業路整備や、高性能林業機械導入などの支援により、間伐と間伐材の利用を推進してまいります。

事業を開始した平成二十一年度から今年度末までに、十五ヘクタールの間伐と八百立方メートルの間伐材利用を見込んでおります。来年度は間伐を二十ヘクタール、間伐材の利用を千二百立方メートル計画しております。引き続き、本プロジェクトを実施し、森林の整備と木材の利用拡大に努めてまいります。

次に、都内の水田の面積の推移と、水田の保全に向けた取り組みであります。東京の水田面積は、国の平成二十二年耕地面積調査によると、三百ヘクタールでありまして、十年前の四百ヘクタールから二十五パーセント減少しております。

水田は、米などの農産物を生産するばかりでなく、地域の環境保全や、子どもたちの食育の場の提供など、多面的な機能を持っておりまして、その保全は重要と考えます。

都は、農業用水施設などの生産基盤の整備を実施しておりまして、今後も市町村や農業団体とも連携し、水田の保全に努めてまいります。

 

[村尾公一建設局長登壇]

村尾公一建設局長

二点のご質問にお答えいたします。

まず、全国都市緑化フェアについてでございますが、全国都市緑化フェアは、国、地方自治体、住民などの協力により、都市の緑化を全国的に推進し、緑豊かな潤いのある都市づくりに寄与することを目的としております。

都はこれまで、緑あふれる都市東京の実現に向け、緑の拠点となる都立公園の整備や街路樹の充実等を進めてまいりました。こうしたこれまでの成果を全国に発信するため、平成二十四年秋、東京で全国都市緑化フェアを開催いたします。

開催に当たっては、開催期間のみのイベントではなく、国、地元自治体とも協働し、緑の施策の先進都市東京ならではの印象深いムーブメントとすべく、地域や都民、民間事業者等と多様な連携を図ってまいります。

次に神代植物公園における東京の植物の多様性についての取り組みでございますが、神代植物公園は、小笠原諸島でしか見られないムニンノボタンのように、東京都の保護上、重要な野生生物種、いわゆるレッドデータブックに掲載されている約二百三十種の植物を含め、全体で約四千八百種の植物を保有、栽培、展示し、多様な植物について楽しみながら学べる公園として、都民に親しまれております。

また、園内にエリアを定め、武蔵野の雑木林など、東京における代表的な植生景観を再現し、その中に、都内における希少な植物も含めて、展示することを計画しております。

今後とも、他の植物園等との連携と、これまで培ってきた栽培技術を生かし、情報の収集、発信や、希少な植物育成に取り組むとともに、多様な植物と人とのかかわり方について、教育、普及する場として、さらにその取り組みを充実してまいります。

 

[新井雄治消防総監登壇]

新井雄治消防総監

二点のご質問にお答えいたします。

まず、事業所への応急手当の普及についてでありますが、傷病者を救命するためには、お話にありましたように、その場に居合わせた方、いわゆるバイスタンダーによる応急手当の実施が重要であります。

当庁では、一人でも多くの都民が応急手当の知識、技術を習得できるよう、救命講習を積極的に推進し、毎年二十万人以上の方に受講をいただいております。

特に、駅舎、百貨店など、多数の人々が出入りする事業所につきましては、事業所みずからが、実効性のある応急救護体制を確立することが望まれます。このため当庁では、平成十二年四月から、応急手当奨励制度を設け、全従業員の三十パーセント以上が、救命講習修了者であるなど、一定の要件を満たした事業所に対して、救命講習受講優良証を交付し、取り組みを促しております。

また、各業種団体、行政機関で構成いたします東京都応急手当普及促進協議会を設置し、情報提供や意見交換を通じて、応急手当の実施促進を図っております。今後とも事業所をはじめ、広く都民に対して、応急手当の普及啓発を推進してまいります。

次に、総合防災教育において、小学校高学年の実施項目に心肺蘇生を取り入れることについてでありますが、東京消防庁では、平成二十年度より、幼児期から各年代の発達段階に応じた総合防災教育を体系的に実施しており、その中で、中学生については心臓マッサージなどの心肺蘇生を、小学校高学年については止血法等を、応急手当の実施項目としております。

しかしながら、お話の通り、救命率の向上には、多くの都民が心肺蘇生を身につけることが重要でありますことから、今後、有識者の意見等も踏まえ、総合防災教育における小学校高学年の実施項目への心肺蘇生の導入について検討してまいります。